茂木 快治

准教授
研究分野
  • 計量経済学
  • 時系列分析

学位(取得校)

  • Ph.D.(ノースカロライナ大学チャペルヒル校)

 

研究テーマ

計量経済学(特に時系列分析)

私の専門分野は計量経済学です。現実経済に潜む法則を発見するためには、統計学的に適切な方法でデータ分析を行い、得られた分析結果を経済学的に正しく解釈することが求められます。計量経済学は、統計学と経済学の見地からデータ分析の方法論を追究する学問です。計量経済学者は、経済の実証分析のためのノウハウを提供するエンジニア的存在と言えます。

経済データは時系列データとクロスセクション・データの2種類に大別され、それぞれ異なる方法論が必要となります。時系列データとは、例えば「2000年1月から2020年12月までの日本の失業率」のように、対象となる主体が単一で観測時点が複数存在するデータのことです。クロスセクション・データとは、例えば「2020年12月時点における世界各国の失業率」のように、対象となる主体が複数存在して観測時点が一点に固定されているデータのことです。私はもともと時系列データの分析を専門としていましたが、最近ではクロスセクション・データの分析も研究範囲に含めています。以下では、私が特に力を入れている研究テーマを3つご紹介します。

1.複数の観測頻度が混在する状況下での時系列分析

従来の時系列分析は、分析対象のデータの観測頻度がひとつに揃っていないと実行不可能でした。例えば、多くの国において、失業率のデータは毎月公表されるのに対して、国内総生産(gross domestic product, GDP)のデータは3か月に一度しか公表されません。そのため、両者の動的な相互依存関係を分析する場合、月次の失業率のデータを四半期ベースに集計する必要がありました(時制集約)。時制集約は情報の損失を招き、分析精度を低下させます。月次データは月次のまま、四半期データは四半期のまま、すべての情報を余すところなく使い切れば、より高精度の統計分析が可能となるはずです。

複数の観測頻度が混在する状況下で時制集約を避けて時系列分析を実行する方法は、2004年頃から欧米を中心として開発され始め、今日では”Mixed Data Sampling (MIDAS, マイダス)” や “Mixed Frequency” という呼び名で広く普及しています。MIDASが経済予測の精度向上に資することは、近年多数の研究者によって確認されています。

私は2009年~2014年の5年間、米国のノースカロライナ大学チャペルヒル校経済学部へ大学院留学していました。その頃から現在に至るまで、MIDASに関する理論的・実証的研究を続けています。第一に、観測頻度の異なる時系列間のグランジャー因果性(予測力向上可能性)を定義し、その検定方法を提案しました。第二に、米国経済を分析対象とし、週次の長短金利差から四半期の経済成長率へのグランジャー因果性の有無を検証しました。第三に、MIDASのアプローチに基づき、日本の「失われた10年」における民間企業設備投資の低迷の要因を再考察しました。

【写真】2014年12月、スペイン・バルセロナのポンペウ・ファブラ大学にて25th (EC)2 Conference に出席し、MIDASに関するポスター発表を行いました。
2.ホワイトノイズ検定の開発と金融市場への応用

ある時系列の過去の値と将来の値が無相関となっているとき、その時系列はホワイトノイズ(white noise)と呼ばれます。時系列のホワイトノイズ性と予測可能性はほぼ同義であるため、ホワイトノイズ性の検定は学問的にも実務的にも重要な関心事です。ホワイトノイズ検定は初歩的な問題と捉えられがちですが、実はかなり高度な問題です。なぜならば、厳密な意味でのホワイトノイズ性は系列独立性(serial independence)よりもかなり弱い条件であり、そのような弱い条件の下での仮説検定の構築には困難が伴うからです。

私は2015年頃からホワイトノイズ検定の開発に着手し、それぞれのラグにおける自己相関係数の最大値に基づく新たな検定方法を提案しました。理論的分析や数値実験を通じて、提案の検定が高い統計的精度を有していることを示しました。また、本研究の応用事例のひとつとして、株価変化率のホワイトノイズ性(すなわち株式市場の効率性)を検定しました。検定の結果、世界の主要な株価指数の日次変化率が動乱期において部分的に予測可能となることを発見しました。

【写真】2017年9月、ハワイ州ホノルルのアラモアナ・ホテルにて、神戸大学大学院経済学研究科主催の 3rd Annual International Conference on Applied Econometrics in Hawaii に出席し、株価変化率のホワイトノイズ性の検定に関する研究報告を行いました。
3.コピュラ、欠損データ分析、因果推論の融合

私は最近、クロスセクション分析の枠組みで、コピュラ(copula)、欠損データ分析(missing data analysis)、因果推論(causal inference)の融合に取り組んでいます。コピュラは、多変数の複雑な相互依存関係を比較的少ないパラメータで記述できる有用な確率分布です。コピュラを用いた回帰分析はコピュラ型回帰(copula-based regression)と呼ばれ、回帰モデルの柔軟性とパラメータの節約を両立するアプローチとして近年注目を集めています。

従来のコピュラ型回帰は、被説明変数と説明変数のデータが完全に観測されるという前提条件の下に成り立っていました。しかし、現実の経済データには、様々な要因で欠損(欠測)が生じます。例えば個別企業の財務データを見ると、売上は公表しているが研究開発費は公表していないという企業が数多く存在します。このような場合に従来のコピュラ型回帰をそのまま実行してしまうと、バイアスのかかった回帰曲線が導かれてしまいます。

私は2017年頃から欠損データに対するコピュラ型回帰の実行方法を研究しはじめました。私のアプローチのポイントは、因果推論の知見を生かして欠損データを正しく処理する点にあります。因果推論とは、例えば投票の電子化や消費税の導入など、ある政策がもたらす因果効果を推定することであり、現代の計量経済学における最重要課題のひとつです。ある政策を実施するか否かという二者択一と、データが観察されるか否かという二者択一は、概念的に似ています。私はその類似性を利用して欠損データに対するコピュラ型回帰の実行方法を提案しました。

因果推論では、政策の対象となったグループと対象外のグループとの間に適切な加重を付与し、政策の因果効果を正しく推定するという手法が知られています。私はこの手法を欠損データに応用し、データの観察されるグループと観察されないグループとの間に適切な加重を付与した上でコピュラ型回帰を実行することを提案しました。提案のアプローチの下では、バイアスを含まない回帰曲線を得ることができます。

ドイツ製造業の個別企業を対象とした実証分析では、研究開発費を被説明変数、売上を説明変数とするコピュラ型回帰を考察しました。売上の大きな企業ほど研究開発費の金額を公表している確率が高いという事実を利用し、各企業に適切な加重を付与した上でコピュラ型回帰を実行しました。提案のアプローチの下で得られる回帰曲線とデータの欠損の問題を無視した場合に得られる回帰曲線は、形状が著しく異なります。このことから、データの欠損を適切に処理している提案のアプローチの有用性が示唆されます。

【写真】2018年6月、香港大学統計・保険数理学部のセミナーにて、欠損データに対するコピュラ型回帰の実行方法に関する研究報告を行いました。

講義・ゼミの内容

担当経験のある科目

計量経済学(学部講義)
Analysis of Stationary Time Series(大学院講義)
Analysis of Nonstationary Time Series(大学院講義)

計量経済学(学部講義)

本科目は、計量経済学の基本を学ぶ学部生向け日本語科目です。計量経済学は、統計学と経済学の見地からデータ分析の方法論を追究する学問です。経済理論に基づく仮説が現実経済において成立しているか検証したり、現実的な視点から経済理論を補完・修正したりする際、計量経済学が大いに力を発揮します。本科目では、計量経済学の理論と実践を楽しく分かりやすく教授します。

本科目で網羅するトピックは、最小二乗法、決定係数、ガウス・マルコフの定理、t検定、重回帰分析、F検定など標準的なものばかりですが、その教え方や事例紹介には独自の工夫を加えます。比較的高度な概念を教授する際は、丁寧な数式展開、数値例、イメージ図などを用いて多角的な説明を行います。また、不動産価格データや企業財務データの実証分析の事例を紹介し、計量経済学が実践的な学問であることを示します。

【写真】2020年度第1クォーター開講の「計量経済学」の授業風景です。新型コロナウイルスの流行拡大により、本科目はオンデマンド形式で実施しました。
Analysis of Stationary Time Series & Analysis of Nonstationary Time Series(大学院講義)

“Analysis of Stationary Time Series”と“Analysis of Nonstationary Time Series”は、時系列分析の理論と方法論に関する大学院生向け英語科目です。これらの科目の目標は、経済時系列データの正しい分析方法を身に付けることです。“Analysis of Stationary Time Series”では、autoregressive moving average (ARMA), generalized autoregressive conditional heteroskedasticity (GARCH), vector autoregression (VAR) など、定常時系列について学びます。“Analysis of Nonstationary Time Series”では、単位根(unit root), 見せかけの回帰(spurious regression), 共和分(cointegration), 多変量誤差修正モデル(vector error correction model; VECM)など、非定常時系列について学びます。どちらの科目も基本的に理論と数値実験を重視した授業構成ですが、時間の許す限り実証分析の事例も紹介します。

時系列が定常であるとは、その時系列が時間を通じて一定の平均値のまわりで短期的変動を繰り返している状態を意味します。時系列が非定常であるとは、その時系列がタイムトレンドを持っていることを意味します。多くの経済時系列は、それ自体は非定常であり、前期比差分をとると定常になります。定常時系列と非定常時系列の両方を適切に扱えるようになると、研究の幅が大きく広がります。したがって、時系列分析の理論や応用を専門とする大学院生は、“Analysis of Stationary Time Series”と“Analysis of Nonstationary Time Series”の両方を受講することをお勧めします。

【写真】2016年度第3クォーター開講の“Time Series Analysis”の授業風景です。

学部ゼミ

2020年度より学部ゼミを開講しました。当ゼミでは、各自が興味を抱く経済データに対して適切な分析を行えるようになることを目指します。3年次は計量経済学の教科書や現実経済に関するレポートを輪読し、計量経済学の理論と応用に対する理解度を深めます。4年次は各自の設定したテーマに沿って卒業研究を行います。開講して間もないゼミですので、その詳細な内容はまだ固まっておらず、今後ゼミ生の皆さんとともに良いゼミをつくり上げていきたいと考えています。

大学院ゼミ

2020年度より大学院ゼミを開講しました。当ゼミでは、計量経済学(特に時系列分析)の研究を行い、学術論文を執筆します。論文内では、既存の分析手法に優越する新たな分析手法を提案し、その優位性を理論的・数値的・実証的に示すことを期待します。これは決して容易なことではありませんが、優れた分析手法の提案は学術界において高く評価されます。

メッセージ

私が計量経済学者を志したきっかけは、学部生時代に履修した講義やゼミで計量経済分析の面白さに魅せられたことです。それ以来、大学で計量経済学の研究・教育に従事することを目指し、日々勉強を重ねてきました。2020年度に念願叶って「計量経済学」とゼミを開講するに至り、感慨深く思います。「計量経済学」履修者やゼミ生の皆さんに計量経済分析の醍醐味をお伝えすべく、「楽しく、分かりやすく、役に立つ授業」を心がけます。  

“Analysis of Stationary Time Series”と“Analysis of Nonstationary Time Series”は、私の研究テーマと直結する科目ということもあり、思い入れの強い科目です。時系列分析の理論と応用を学ぶことは、楽しく有意義なことであると考えます。経済予測の精度を高めたり、今まで知られていなかった変数間の相互依存関係を発見したりすることは、学問的にも社会的にも有益な貢献となります。受講者の皆さんが“Analysis of Stationary Time Series”と“Analysis of Nonstationary Time Series”の内容をご自身のご研究に役立てて下さることを期待します。

主要業績

査読付き学術雑誌掲載論文

  1. E. Ghysels, J. B. Hill, and K. Motegi (2016). Testing for Granger causality with mixed frequency data. Journal of Econometrics, vol. 192, pp. 207-230.
  2. K. Motegi and A. Sadahiro (2018). Sluggish private investment in Japan’s Lost Decade: Mixed frequency vector autoregression approach. North American Journal of Economics and Finance, vol. 43, pp. 118-128.
  3. J. B. Hill and K. Motegi (2019). Testing the white noise hypothesis of stock returns.   Economic Modelling, vol.76, pp.231-242.
  4. S. Hamori,  K. Motegi, and Z. Zhang (2019). Calibration estimation of semiparametic copula models with data missing at random. Journal of Multivariate Analysis, vol. 173, pp. 85-109.
  5. J. B. Hill and K. Motegi (2020). A max-correlation white noise test for weakly dependent time series. Econometric Theory, vol. 36, pp. 907-960.
  6. K. Motegi, X. Cai, S. Homori, and H. Xu (2020). Moving average threshold heterogeneous autoregressive (MAT-HAR) models. Journal of Forecasting, vol. 39, pp. 1035-1042.
  7. E. Ghysels, J. B. Hill, and K. Motegi (2020). Testing a large set of zero restrictions in regression models, with an application to mixed frequency Granger causality. Journal of Econometrics, vol.218, pp.633-654
  8. S. Hamori, K. Motegi, and Z. Zhang (2020). Copula-based regression models with data missing at random. Journal of Multivariate Analysis, vol. 180, article #104654.
  9. C. Ai, O. Linton, K. Motegi, and Z. Zhang (2021). A unified framework for efficient estimation of general treatment models. Quantitative Economics, vol 12, pp.779-816.
  10.  K. Motegi and Y. Iitsuka (2023). Inter-regional dependence of J-REIT stock prices: A heteroscedasticity-robust time series approach. North American Journal of Economics and Finance, vol. 64, article #101840.
  11. K. Motegi and S. Woo (2023). A note on the exponentiation approximation of the birthday paradox. Communications in Statistics – Theory and Methods, DOI: 10.1080/03610926.2023.2245086

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