
経済活動は、私たちの日常生活や社会全体に深く根付いており、その影響から逃れることはできません。たとえば、日々の買い物は典型的な経済活動の一つです。また、労働を通じて得る給与や報酬は、商品やサービスを購入するための資金を提供します。さらに、私たちが支払う税金は、公共サービスの提供や社会福祉の財源となり、社会全体の生活を支えています。貯蓄や投資も、経済活動と密接に関連しており、銀行に預けられた資金は企業への融資や新たなプロジェクトへの投資に活用され、経済の活性化に寄与します。
経済学は、こうした多様な経済活動を研究対象とする学問であり、私たちにとって最も身近な分野の一つと言えるでしょう。神戸大学経済学部・経済学研究科は、120年の歴史を誇り、日本で最も伝統ある経済学の教育・研究拠点の一つです。同学部・研究科は経営学部・経営学研究科と独立しており、経済学に特化した教育・研究機関です。これは全国の国立大学の中でも数少ない事例であり、神戸大学経済学部・経済学研究科が経済学の領域において多様な研究分野を持つ教員を40名以上も擁し、学問のダイバーシティを実現している理由でもあります。この多様性こそが、教育・研究における最大の強みです。複雑で変化の激しい経済活動を理解するためには、多面的かつ多角的な視点が不可欠だからです。
学生にとって、この学問の多様性は、学びたいことや学ぶべきこと、そして将来役立つ可能性のある知識との出会いを広げてくれます。特に、将来に役立つかもしれない学びとの出会いは重要です。しばしば「大学では、すぐに社会で役立つことを学ぶべきだ」という声を耳にしますが、すぐに役立つ知識は早く陳腐化してしまうことがあります。むしろ大学では、今すぐには役立たないが、将来的に大きな価値を持つ知かもしれない知識を学ぶことが重要です。このように、一見無駄に思える勉強に時間を費やせることこそ、大学生の特権と言えるでしょう。
旧約聖書「コヘレトの言葉」に、「朝に種を蒔き、夕べに手を休めるな。どちらが成功するか、あれなのか、これなのか、あるいはその両方なのか、あなたにはわからないからである」(聖書協会共同訳)という一節があります。学問についても同様のことが言えるのではないでしょうか。将来本当に役立つ学びが何か、事前に知ることは誰にもできません。一見無駄に思える学びが、将来その人を支えるかもしれないのです。神戸大学経済学部・経済学研究科には、きっとそうした学びとの出会いが待っています。そのような出会いを求める皆さんとの出会いを、私たちも心待ちにしています。
経済学研究科長・経済学部長
金京 拓司