教員紹介

在学生・修了生の声

HOME > 社会人コース > 在学生・修了生の声(福永 肇)


学問に取組むアカデミックで芳醇な時間を自分の人生に持とう。

■社会人院生として六甲台に再び登ってくるまで

 私は神戸大学大学院経済学研究科(以下、大学院と記す)の社会人コース後期課程の初期のころに学びました(2002年~2007年)。50歳を前にして、なぜ社会人大学院で学ぼうとしたのか、大学院ではどのような生活だったのかにつき個人の経験をお話してみたいと思います。これから神戸大学で学ぼうと思っておられる方の参考となれば嬉しいです。なお大学院の制度や学則はその後に改訂されている箇所もあると思いますのでご留意ください。

 私は神戸大学経済学部を1979年に卒業し、住友銀行に就職しました。最初は国際金融・貿易金融の分野で働きました。YenではなくUS$が、私が仕事で使う通貨単位でした。為替ディーラーとか、ウォール街での勤務も経験します。1989年にニューヨーク支店から「デリバティブ」という新しい金融手法のノウハウを日本に持ち帰り、日本の金融市場に移植して育てていきました。先物取引やオプション、スワップという金融手法です。自分の顧客に最高品質のサービスを提供するために、プロとして必要な新しい知識は必須で習得します。難解な金融工学の専門書にも挑戦してみました。社会の最先端で日本最初となる仕事をしていくのは充実してやりがいがある生活です。しかし自分の日々の仕事を歴史の中で位置づけてみようとか、金融システムの体系を考察してみようといったような、大きな視点・観点から物事を考えてみる心の余裕はありませんでした。例えば、「日に何回も使っているグローバリズムという用語が、世界の経済にどういう影響を与えるのだろうか」、「市場原理主義というのは、新古典派のことなのだろうか、それともフリードマンなのか、よくわからないなぁ」とは思うことがあっても、すこし気に留めただけで次の仕事に向かっていきました。そのように慌ただしく時間に追われている中で、ときどき、フッと、六甲台の教室や図書館の風景が目の前に浮かんで来て、「もう一度、しっかりと勉強してみたいなぁ」と思う時があります。それは、確固たる自分自身の志やスタンスを持たないまま、仕事に振り回され、時間に追われて忙しくしている自分の人生を、潜在的に不安がっていたのかも知れません。これから社会人大学院で学んでみようかと考えておられる皆さんも、おそらく同じような気持ちをお持ちなのだろうと思います。大学院時代という勉学する時間を自分で設定すると、そのような疑問や課題は、学んでいく過程を通じて解決していくこが出来るでしょう。根無し草的だった日々の生活が、根を伸ばし広げることで確りとしたものに変っていくと思います。

 勤務先の銀行では国際金融・貿易金融分野で20年間従事した後に病院取引担当者に転勤します。翌春に、関東の国立大学が社会人大学院(夜間)を開設し、第一期生として入学しました。教室は東京駅前のビルの地下3階にあり、窓はありませんでした。夜間と土曜日の開講です。丸の内の職場から毎日夕方に抜け出して大学院に登校し、講義終了後職場に戻ってくるという2年間の院生生活でした。毎日がワクワクしていました。修士(経済学)号を2002年に取得します。学位請求論文は『タイの医療経済学序説』という題目でした。当時の銀行内には、海外留学組でビジネススクールやロースクールを修了した専門職修士はいましたが、国内大学院で学位論文を書いた銀行員はまだ一人もいなかった時代です。それゆえ大学院修了と同時に銀行から栃木の私立大学に出向し、助教授として病院経営学を教えることになります。母校神戸大学の大学院経済学研究科が2001年から博士後期で社会人の受け入れを始めていることを知ります。博士後期課程が仕事を持った社会人を受け入れることはそれまでは想像できないことでした。驚きでした。時代が変わり出したのです。躊躇なく願書を出します。入学試験は英語(辞書持込可)と経済学の筆記試験に研究計画に対しての面接がありました。神戸大学大学院の社会人コースは土曜日だけの3年間で修了するカリキュラムでした。

 

■神戸大学での院生生活

 大学院生の時代の生活をご紹介いたします。ご参考になれば、と思います。ただし研究や勉学の方法は、各自さまざまです。大学院は研究の方法を学び身につける場所、時間でもあります。
 栃木の大学での勤務を金曜日の17:00に終え、JR那須塩原駅から学割で東北新幹線に乗り、JR東京駅で東海道新幹線に乗り換えてJR新大阪経由、神戸の実家に向います。土曜日の0:30に実家に到着し、翌朝は六甲台へ登ります。午前中の講義を受講して午後からはゼミです。ゼミ終了後は少し三宮・元町を散歩しジュンク堂書店や海文堂書店、ヤマハなどに立ち寄って息抜きをしました。土曜日は実家に泊まり老母の様子を把握します。日曜日に埼玉の自宅に戻り、月曜日の早朝に単身赴任先の栃木に向かうという距離の長い移動が5年間の院生時代の生活でした。移動中が勉強時間でした。大学院で講義される授業内容は、高度・抽象的でとても理解できないということはありませんでした。ビジネスマンとして日々行っていることを整理して体系づけることに役立つ知識・知恵、解析方法が示されます。やがて自分が行っている仕事の位置づけと客観的評価ができるようになります。時系列、横断面から客観的に自分の立ち位置が理解される、そういう機会と時間を持てることが大きいと思います。

 研究室のゼミは後期課程2名、前期課程2名の4名での構成でした。前期課程には優秀な中国からの留学生もいました。スティグラーなどの外国書購読、院生の研究発表がゼミの内容です。この外国書購読が私には時間面での難物で、先程述べた金曜日のJR那須塩原駅からJR新大阪駅までの車内は、英和辞典を片手にしていた時間でした。このように書けば負担が大きくて大変辛そうです。しかし、そもそも勉強がしたくて大学院に向かっているので、一週間の中にそういう勉強の時間を持つことは、自身の効用を高めることにはなっても、その逆ではありません。皆さんも大学院で学び始めると、面白くなってきて、きっとワクワクして来られることと思います。

 5年間出向した栃木の大学から銀行に戻る時に、現在の勤務校から教職への打診があり、銀行と相談のうえ銀行勤務を2年間行った後に、54歳で円満退職して大学に転職しました。大学院は銀行退職の時に単位取得満期退学にしました。大学院時代には、分厚い単著の専門書も3冊出版しました。これらを博士論文で纏めて、研究を仕上げていく予定です。現在の職場は愛知県にある藤田保健衛生大学で、医療科学部医療経営情報学科教授、医学部兼任教授、大学院兼任教授として、経済学や病院経営学を教えています。神戸大学大学院で勉学出来たことから、銀行員と大学教員という2つの職業を経験することになり、個人的には充実した人生を送っています。社会人大学院修了後、現職を深めていかれる方が多いのだと思いますが、例えば教員とか研究者の人生に転向する選択も検討できると思います。

 

 ■なぜ神戸大学大学院なのか

 大学院は、各国の学校制度の中で最高学府であるとともに、各人にとっては教育を受けられる最後の学校になります。すなわち大学院を修了すると、その後にはもう行く学校はありません。世界を100人の村とすると、短大以上を卒業した人は100人に1人になるそうです。大学院修了となれば、もっともっと少人数になります。そこまで頑張ってみようではありませんか。

 経済学を学ぶのならば、私は神戸大学をお勧めします(なお、私は神戸大学の卒業生ですが、社会人大学院生には神戸大学の卒業生は見かけませんでした)。なぜ神戸大学かというと、①経済学の伝統がある、②立派な先生方がおられる、③アカデミックなキャンパスと校舎、④六甲台の図書館の4点が理由です。

  1.  ①経済学の伝統
     大学の歴史の詳細はホームページでご覧ください。経済学を研究・教育する日本で2番目に古い官立の大学です。学校に長い歴史があること、それは評価される素晴らしい財産なのです。国立の大学院大学で、しかも看板学部にて学問に没頭する時間が自分の人生には持てたという有り難さは、大学院を修了されて六甲台を下ったあとの皆さんの人生にて、ジワーッと理解されて来られると思います。
  1.  ②立派な先生方
     経済分野では神戸大学は一橋大学、早稲田大学と共に日本の最大規模の大学の一つで、若手研究者から大学者まで優秀な先生が揃っておられます。また六甲台には、経営学部や法学部およびその大学院、経済経営研究所などの先生方もおられ、社会科学分野では世界を相手にする大変充実した大学だといえます。
  1.  ③アカデミックなキャンパス・校舎
     これは六甲台のキャンパスに立たれるとご納得されます。神戸の街と大阪湾が足下に一望されます。世界に繋がる広大な風景です。イスタンブール大学と神戸大学の2つの大学が世界で最も眺めの良い大学だそうです。この学校の学生は、日々この風景を眺めながら青雲の志を抱き、そして卒業生の多くが海外に雄飛していきました。皆さんもそのようになって欲しいです。大きなアーチの車寄せと大きな時計が印象的なクリーム色の校舎はシンプルながらも格式高くとても美しい。大講義室の教壇や学生の机や椅子は八十年以上前から使われているものでしょう。多くの学生が学んだ教室の机を手で撫でてみてください。歴史と伝統が手から伝わってきます。誰しも「ここで学んでみたい」と思われることだと思います。実は学校は、校舎とキャンパスという環境がとても重要な要素なのです。しかし充実した教育環境や美しいキャンパスを提供できる大学は残念ながら大変少ないのも事実です。
  1.  ④六甲台の図書館
     私の神戸大学をお薦めする4つ目の理由は六甲台の図書館の書庫です。4階建ての書庫ビルが社会科学関連の専門書だけで埋まっています。書籍数は100万冊だそうです。どこかの階の書棚の前で、1冊1冊、書棚から取り出しては眺め、拾い読みしてみてください。周りにだれ1人いない、俗世間とは全く隔絶したアカデミックな空間で、時間がゆっくりと過ぎていきます。世俗を忘れて、書棚の前で真摯な研究の成果である専門書と対面する。私はその空間と時間が神戸大学や神戸大学大学院での生活から得られる大きな価値の一つだと思います。おそらくは英国やドイツなどの学生もこのように古典と対面する多くの熟成した時間を持っているのでしょう。神戸大学を卒業してしまうと、卒業生として図書館の利用は出来ますが、書庫に入れません。しかし、私の心の中には、書庫の光、温度、芳醇な本の香りが残っています。パソコンのデスクトップの背景は永年、六甲台の図書館の閲覧室です。

 自分の人生の中で勉学できる時間を持てること、それは得難い価値ある経験だといえます。ぜひ皆さんもこのような学問環境での神戸大学で経済学を学んでみてください。

 

1979年 経済学部卒、          
2007年、大学院博士後期課単位取得満期退学
現在、藤田保健衛生大学 教授       
福永 肇

 

 

PAGE TOP ↑